井上啓太医師 再生医療との出会い | CPC株式会社

2022/08/15

井上啓太医師 再生医療との出会い

今回は、アヴェニューセルクリニック院長の井上啓太医師より、「再生医療との出会い」についてご紹介いたします。

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再生医療との出会い

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私が「再生医療」というものに具体的に携わりたいと最初に考えたのは今から20年以上前、1998年と記憶しております。ドイツで変形性膝関節症への培養軟骨移植に関して事業化が進んでいるという記事を目にした時です。

まだ20代前半の当時の私は「明日の医療を変えたい」「これをやってみたい」「事業化したい」と考え、いいアイディアだろうと言わんばかりに当時の先輩医師に相談したことを覚えています。しかし、反応はいまひとつで「そのような先の見えない物に時間を費やさずに手術の腕を磨きなさい」と諭されました。

当時私は東京大学の形成外科に初期研修医として入局したばかりで、皮膚を綺麗に縫う方法や、植皮の貼り付け方などを学んでいました。外科の医局で研修医が「再生医療」と口にすれば、何か夢でも見ているのかと思われていた時期です。

                 

その後、先輩の教えに忠実に従い数年間は手術漬けの日々を過ごし、再生医療、ましてや事業化などはしばらく忘れかけていましたが、単調な日々への飽きや疲れからでしょうか、ふと入局した頃の思いが蘇り、東京大学助手のポストを投げ捨てて大学院に飛び込みました。

指導教官は吉村浩太郎先生(現・自治医科大学教授)でしたが、そのころは丁度、それまで廃棄されていた吸引脂肪の中から間葉系幹細胞(脂肪由来幹細胞)が大量に回収できること、また、毛髪一本からでも幹細胞を大量に培養できることが発見された時期です。

幹細胞の基礎研究は手術に勝るとも劣らず面白く、培養した細胞を毎晩遅くまでラットに移植することに夢中になっていた記憶があります。

                    

その後、興味が高じてコロンビア大学に留学し、より能力の高い幹細胞を作成すべく遺伝子導入まで試すようになりました。あいにく遺伝子導入は失敗に終わりましたが、大学院、留学の研究生活を通じて幹細胞の能力には驚かされてばかりでした。

しかし、脂肪由来幹細胞については「培養すると、とにかく猛烈に増殖する。何にでも分化する。豊胸には使えるかもしれない」という程度のイメージをいだいているだけで、当時はこの細胞に現在わかっている程の需要があることは想像していませんでした。

国内ではさまざまなガイドライン(ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針など)や規制、アメリカにおいては“minimal manipulation”という基本方針が強かったこともあり、培養細胞の臨床応用は永久に不可能ではないかとさえ思っていたくらいです。

             

しかし、安倍政権時代に施行された「再生医療等安全性確保法」により時代の空気は一変しました。

それまで一律に「高リスク」として実施が規制されてきた再生医療がリスク分類され、脂肪由来幹細胞を含む間葉系幹細胞の移植が「中リスク」に分類されたことから、一気に臨床応用への道が開けたのです。私もこのタイミングで再生医療事業に専念するべくアヴェニューセルクリニック、そしてその後CPC株式会社の設立に関わらせて頂きました。

また、この過程で、多様な疾患への間葉系幹細胞の臨床試験が世界中で実施されております。

          

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最後に

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私自身も日々の臨床でこの細胞の能力と汎用性を目の当たりにし、今となっては「脂肪由来幹細胞は再生医療産業の“米”である」と信じるまでに至りました。最近では件の先輩医師は大学教授になられ、学会の再生医療関係のセッションでお見かけすることもあります。

私も現実に培養細胞事業に関わるようになり、はじめて「再生医療」を知った頃から長い時間が経過したことをあらためて実感しています。

               

【アヴェニューセルクリニック院長 井上啓太医師 プロフィール】

日本形成外科学会専門医/医学博士/東京大学非常勤講師/自治医科大学非常勤講師/静岡がんセンター特別非常勤医師/下肢静脈瘤血管内焼灼実施医

経歴

・東京大学医学部 卒業

・東京大学形成外科助手

・埼玉医科大学形成外科助手

・静岡がんセンター形成外科医長

・コロンビア大学皮膚科